■「特殊低反射フィルム」

日本油脂株式会社 化成品研究所 森本佳寛

1. はじめに

LCD の爆発的な伸長に加え、CRT のフラット化や PDP や EL 等に代表される新しいフラットパネルディスプレイなど、近年のディスプレイの進歩は目覚しいものがある。これら技術の進歩による画面の大型化、高精細化にともない、より鮮明な画面への要求はますます高くなっている。その中において反射防止(Anti Reflection=AR)機能についても関心が高まっている。

AR 機能とは光の干渉を利用し、ディスプレイ表面の光の反射を抑える機能である。照明などの背景光の映り込みを低減することにより、鮮明な画像を手に入れることができる。この AR 機能をフィルム表面に付与したものが、AR フィルムである。

日本油脂では化学メーカーとしての長年の知見を基に、新しい材料の開発と加工技術を確立し、特殊低反射フィルム「ReaLook®(リアルック®)」シリーズを開発、上市した。本稿では LCD をはじめとする電子ディスプレイ用途の AR フィルムに求められる機能、および「ReaLook®」の特長について述べる。

2. AR とは

まずAR機能について簡単に説明する1)。

光が屈折率の異なる物質界面に入射するとき、その界面において光の反射が生じる。つまり屈折率1の空気中を通った光がガラスなどの表面に達したときに、反射が生じることになる。そのときの反射率、すなわち入射する光に対して表面で反射する光の割合は、その物質の屈折率 ns によって、式[1]により表される。


たとえば屈折率 ns = 1.54 のガラスに光が入射すると、その界面での反射は、

R0=[(1-1.54)/(1+1.54)]2 = 0.0452

となり、 4.5% の光が反射することになる。わずか 4.5% の反射率であっても入射光が強い場合には、その反射は十分に大きく、画面の見易さに影響を与える。またディスプレイ内部からの光(=画像)も、ディスプレイ/空気界面で反射するため、明るさが低下してしまう。また保護フィルターを取り付けたディスプレイなど、「ガラス越しの画面を見る」といった状況では、空気/ガラス界面、ガラス/空気界面、空気/ディスプレイ界面の3つの界面があり、それぞれの界面での反射が生じるため、より一層画面が見づらくなる。

これら界面における反射を減少させ、透過率を向上させるために AR が用いられる。これは空気とガラスなどの対象材料の間に屈折率の異なる層を形成し、各界面における反射光の干渉を利用して、反射を減少させるものであり、最も簡単なものは、空気と物質の中間の屈折率を持つ膜を1層形成したものである。その表面反射率は膜が無吸収、均質であると仮定した場合、膜の屈折率(n1)、膜の厚み(d1)および材料の屈折率(ns)により光学特性が決定する。

AR はヒトの視感度中心である 500~600nm を目的波長λとして効果が最大となるように設計されることが多く、層の厚み d1 = λ/(4× n1)の場合に、表面と界面での反射光の位相が逆転し、その効果は最大となる(図1)。その時の波長λにおける反射率は式[2]で表すことができる。


たとえば屈折率 1.54 のガラス上に、屈折率 n1=1.40 の膜を d1=λ/(4×1.40) の厚みで1層形成した場合、その表面反射率はλにおいて、R0=1.5(%) まで低減することができる。λ=600nm としたときの表面反射の理論値を図2に示す。


また屈折率の異なる層を積層することにより、より表面反射率を低減させることができる。例として ns = 1.54のガラス上に n1= 1.60、n2 = 1.40の層を、それぞれ 94nm、107nm の厚みで順次形成した2層 AR の反射率の理論値を図3に示す。実際に反射防止膜を設計する場合には、膜および基材の光の吸収、屈折率分散なども考慮に入れる必要がある。


1)「光学薄膜」,藤原史郎編,共立出版(1985)

3. 特殊低反射フィルム「ReaLook®(リアルック®)」

AR フィルムは表面に貼り合せる簡単な工程により、その効果を付与することができることから、様々な用途に用いられている。特に高価なディスプレイ本体や部材に直接 AR 処理を行うリスクの回避ができることから、電子ディスプレイの分野でも急速に普及しつつある。

日本油脂では特殊低反射フィルムとして「ReaLook®」シリーズを上市している。「ReaLook®」は AR 層に新開発の硬化性フッ素樹脂を用いた低反射フィルムであり、ウェットコーティングによる高生産性と高機能を両立している。またウェットコーティングの特長を生かし、偏光板に用いられるトリアセチルセルロース(TAC)フィルム、位相差フィルムに用いられるポリカーボネート(PC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを始めとする、様々なフィルム基材への AR コーティングが可能である。以下に「ReaLook®」の特長について述べる。

■ 光学性能
「ReaLook®」は、AR 層に新開発の低屈折率フッ素樹脂を用いた多層 AR 構造により、優れた光学性能を達成している。図4に「8200UV」の反射スペクトルを示す。「8200UV」を表面に貼り合せることにより、最小反射率 0.3%、全光線透過率 97% (アクリル板両面に貼り合わせ)まで光学性能を向上させることができる。


従来、LCD 用途の反射防止にはアンチグレア(AG)タイプのフィルムが用いられている。AG は表面に微細な凹凸をつけることにより、反射光を散乱させて映り込みを目立たなくできるが、画面が白っぽくなり鮮明な画像が得られない。それに対し AR フィルムは反射光の散乱が殆ど無いため、鮮明な発色と画像を得ることができる(図5)ことより、LCD 分野でも注目されている。


■ 表面硬度
AR フィルムはディスプレイの最表面に用いられる場合が多いため、取り扱い時にキズが付かないことが求められる。しかし AR 層はその厚さと屈折率を制御して反射率を低減しており、わずかなキズでも光の反射が変わるため、一般的なコーティングに比べてそのキズは目立ちやすい。

「ReaLook®」は、フッ素材料をAR層形成後に架橋反応させるコーティング技術と、薄膜物性に対する知見より、ウェットコーティングながら実用的な表面硬度を有している。さらに今夏には #0000 スチールウールによる 250g × 10 往復の摩擦に対してもキズがつかない表面硬度を達成した新製品を上市する予定であり、より表面強度が求められるノート PC などの分野にもさらなる展開が期待できる。

■ 付加機能
AR フィルムはディスプレイ前面に配置される場合が多く、帯電防止性、防汚性などの付加機能が求められる。

帯電防止性(Anti Static = AS)は AR 層の表面に 1010Ω 程度の導電性を与えることにより、静電気の発生を抑えてホコリなどの付着を防ぐ機能である。「ReaLook®」はAR層に導電性材料を添加し、108 ~ 1010Ω の実用的かつ半永久的な AS 性を達成している。

また指紋やマジックなどの汚れに対する抵抗性として、防汚性も求められる。これは汚れが付きづらいと同時に、汚れを拭取り易いといった性能が求められる。「ReaLook®」は AR 層がフッ素材料からなり、高い防汚性を有している。

■ 生産性
AR フィルムの効果が認知され始めたのに伴いこれまで「高性能」であれば良かった AR フィルムに「低コスト」であることが強く求められるようになり、加えて「供給能力」、「品質」が重要視されるようになった。

「ReaLook®」は独自のウェットコーティングによる連続生産が可能であり、高い生産性から生まれる供給能力および低コストを特長としている。また AR フィルム専用設備によるコーティングに加え、連続検査が可能な欠陥検査装置により、安定した品質の製品を提供している。

以上の様に「ReaLook®」は AR フィルムに求められる要求に対し、優れた特性を有している。表1に「ReaLook®」シリーズの代表的な製品および物性を示す。

* AR = 反射防止、AS = 帯電防止、AG = 防眩
** AR フィルムの裏面を荒らし、黒色塗料を塗布した 5、-5°反射率
*** AR 面を #0000 スチールウール 100g 荷重で 10 往復摩擦後、表面を観察

我々はウェットコーティング AR フィルム「ReaLook®」を通じ、様々な課題に対する研究や、知見の蓄積を行ってきた。現在の性能、品質はその成果であるが、課題はまだ山積している。今後もさらなる性能改善、品質向上に努めていきたい。