■「写真作品の展示・保存方法の実際」

フォト・ギャラリー・インターナショナル(P.G.I)社 ディレクター 山崎信

1. 序言

国内で写真を扱う美術館が設立されたのは、およそ 20 年前のこと。その歴史は、フレーミング(額装)の変遷とともに、歩んできたと言っても過言でないかもしれません。そして、美術品をいかに美しく保護し、展示・保存するかというテクノロジーを展開している中で、私たち日本油脂が取り組んでいる、特殊低反射アクリル板「リアルック ®FN-72」が少しでもお役に立てればと考えております。
そのフレーミングの草分けとも言えるフォト・ギャラリー・インターナショナル(P.G.I.)社は、写真専門のギャラリーとして 1979 年に開設されています。今回、その P.G.I. のディレクター山崎信氏のご好意により、2001 年秋に「画像保存セミナー(」※)で発表された講演要旨(一部割愛)を、ホームページ上で掲載させていただくことになりました。
※2001 年 10 月 12 日講演 主催:社団法人日本写真学会

2. はじめに

フォト・ギャラリー・インターナショナル(P.G.I.)は、1979 年に写真専門のギャラリーとして開設されたが、写真作品の企画展示を行っていくにあたり、ギャラリーが写真を美術品としてどのように管理すればよいのか、そして、どのような方法で展示をすればよいのかを試行錯誤していた。当時、国内には写真美術館や専門業者、研究機関もなく、唯一手本となったのは米国から送られてくる写真作品であった。

その後も米国の美術館やギャラリーが行っている方法を参考にして、国内外のオリジナルプリントの展示や保存について、模索しながらもその理想を追求していくことが弊社に課せられた役割と受け止め、現在に至っている。
マッティングやフレーミングについては主に米国のシステムを参考にして、国内におけるひとつのスタンダードを目指してシステムの構築に努めてきた。開設当初の 1980 年代初めにはマッティング用の無酸性台紙、テープ、用紙、包材などの保存用品とその需要はほとんどなく、海外からの輸入に依存していた状況であった。しかし近年、国内生産が始まり、その開発と品質向上により国産品に切り替えることで、美術館や博物館、資料館などへ実用的な価格で安定供給ができるようになってきている。
フレーミング(額装)については、写真専用のオリジナルアルミフレームを国産化し、多くの展覧会や美術館の備品として採用されて普及した。そして 20 数年前には画期的な「額用ガラス」として米国製の低反射ガラスを紹介し、それに続いて、最近では国産の低反射アクリル板の普及に力を注いでいる。地震対策に適した安全性に加え、反射が少なく、紫外線をカットするなど理想的な性能を有する鑑賞用「低反射アクリル板」として紹介している。

3. 写真展示の現状

わが国に写真を扱う美術館が設立されたのは、およそ 20 年前のことになる。それまで写真の展示には木製パネル貼りのものが大半を占め、この方法が当たり前のようにさえ思われていた。しかし、近年本格的に写真を取り扱う美術館での写真展を見る限り、その展示方式は以前と変わり、額装したものが主流となり、他のファインアート(絵画、版画など)と同じように展示されている。
その要因として、海外の美術館と同様に写真をアートとして捉えるようになり、プリントそのものの取扱いが重要視されたこと、オリジナルプリントとして収集したりや寄贈を受けるようになったこと、そして写真の表現方法が多様化したことが挙げられる。
写真は 20 世紀を代表する独自の複製芸術として認められている反面、フィルムがあれば何枚でもプリントする事ができ、縮小拡大が自由自在で、しかも安価で機械的に再製ができるものと軽視する見方もある。確かに、ここ数年の急進的なカラープリントやデジタルプリントの技術革新と普及によって、低価格化と品質向上は現実となっている。
しかしながら、160 年の写真の歴史において膨大な写真が撮影され、多種多様の古典技法写真や銀塩写真が作られてきたが、20 世紀の代表的な写真作品の大半を占めているのは黒白銀塩写真であり、銀塩写真の制作には技術と時間、しかも熟練を要しながらも、多くの写真家によってこれまで伝統的に受け継がれてきた。その一方、それらのベースとなるバライタ印画紙の製造の存続が危ぶまれている今日、その需要や技術の維持さえも懸念されている。
以上のような状況下での写真作品の展示については、やはり安全性と保存を優先に考えるべきではないだろうか。例外として、ディスプレイを目的として展示や現代美術にみられる表現方法を追求した大型写真は、保存を目的とせずにエキジビションプリントとして扱えばよいだろう。

4. 展示と保存の方法

ここでは希少なオリジナルプリントとして評価される作品について、その理想的な展示方法を提案する。
まず、写真作品を効果的にしかも安全に展示するために、また、展示と保存を両立させて効率的に行うためには、マッティングとフレーミングとの組み合わせが有効な方法である。
そして制作者とギャラリー、美術館が協力をして作品のサイズや仕様を標準化し、それぞれの役割を分担して行うことで、さらに合理的な展示と保存を充実する事が可能であろう(注1参照)。

ブックマット
いくつかあるマッティング方法の中でも、ブックマットは保存に適した最も安定した方法である。窓を開けた台紙(これをオーバーマットと呼ぶ)を表にして、プリントの支持体となる裏側の台紙(バックボード)を本のようにヒンジで一辺を綴じた形態から、このように呼ばれている。
写真(プリント)を台紙(バックボード)に仮止めをして、オーバーマットとの2枚の台紙で挟み込んだ状態とする。プリントの仮止め方法は上部でのヒンジング、または四隅をペーパーコーナーで装着する。
台紙は、弱アルカリ性(pH8.0±0.5)に調整したコットンラグ・ボード(Cotton Rag 100% 通称:ミュージアムボード)を使用し、弱アルカリ性で酸性の雰囲気からプリントを保護する。平面性と吸湿性に優れ、適度な余白を付けることで作品を扱い易く、物理的な損傷を防ぐ。またイメージを引き立てる視覚的な効果もあり、作品性を高める。
プリントはそのものの保存を優先に考えるならば、支持体や接着剤などの影響を避けるためには、プリントを直接貼らずに元に戻せる状態、あるいは保存に適した状態で安定させることが最良の方法と考えられている。その理想的な方法がこのブックマットであり、保存と展示という相反する問題に同時に応えられる合理的な方法と言える。

(注1)写真作品の合理的な制作分担
制作者(ラボ・作者):プリントの上下左右に適度な余白(余黒)を付ける。またはひと周り大きめの台紙に貼る。 例)四切→大四切、半切→小全紙、全紙→大全紙
ギャラリー:作品にブックマット(マット)を付ける。額サイズに合わせる。 3)美術館・コレクター:標準3サイズのブックマットにして、各サイズ毎にストレッジボックスに納めて整理保管をする。

シンクマット
ブックマットの応用として、シンクマットの方法がある。古典技法写真やすでに周辺に劣化や変化が生じている写真(プリント)は、オーバーマット(台紙)が圧着することで台紙の成分や水分の影響が考えられるので、避けなければならない。また、鶏卵紙のような台紙(カードボード)に貼られている写真は厚みがあり段差が生じるため、オーバーマットを被せにくく、部分的な装着が難しい。支持体のバックボード(裏台紙)をシンク状にして、写真を落とし込むことで、写真画像にダメージを与えることなく仮固定することができる。

フレーミング(額装)
額縁(Picture Frame)は17世紀、油彩画、特に板、カンバスの材料を用いた絵画の装飾と移動のために発達してきたと言われている。多くは木製縁に漆喰鍍金の装飾を施したり、木彫その他も用いられ、近代では簡単な木製縁、あるいは縁なしの場合も多く、その他金属枠、プラスチック枠が急速に普及してきた。額縁の様式にも各時代の嗜好、傾向がみられる。
写真の額装の多くは、絵画主義的な表現を除いて、前述の額縁とは異なり、装飾的な縁がなく、装飾性よりも展示と移動の装置としての役割が優先される。展示効果としては、プリントの平面性を保ち、フレームの輪郭と厚みによって壁面と分離し、写真の作品性を引き出し、その存在感を高める。そして巡回展など輸送時には保護のための枠となり、保管ケースの役割を果たすのである。
また保存を目的とする額装は特殊な写真の場合であり、通常は展示のための一時的な展示ケースと考えるべきである。額装は外気から遮断して、乾燥や湿度、空気中の汚れやカビなどから写真を保護するが、額装の材質や構造によってはむしろプリントに悪影響を与えるので、長期的な額装は避けなければならない(注2参照)。材質に酸や有機ガスを含むもの、虫やカビなどの生物的劣化が見られるもの、通気性が悪く保湿し易いものは額装材としてふさわしくない。